創業者・資産管理会社の大量保有報告書の読み方:新規上場、相続、資産管理会社への移管
公開
新規上場した会社や創業家が大株主の会社では、創業者本人やその資産管理会社が大量保有報告書を出します。保有比率が数十%と大きいため目を引きますが、その多くは市場で株を買い集めたわけではありません。上場によって開示の対象になった、家族の持ち株を資産管理会社にまとめた、相続で提出者が変わった、といった理由で出ていることを知っておくと、数字に振り回されずに済みます。
新規上場時の報告は「もともとの持ち株」
上場したばかりの会社では、創業者の持ち株が上場によって大量保有報告の対象になり、最初の報告書が出ます。証券コードに英字を含む4桁のコード(例: 614A、604A)は、東京証券取引所が近年の新規上場銘柄などに割り当てているもので、上場から日が浅いことの手がかりになります。
山八商事では代表取締役の鈴木俊介氏が69.58%、ビーエイブルでは創業者の佐藤順英氏が資産管理会社と合わせて60.1%、ギークリーでは創業者の奥山貴広氏が資産管理会社と合わせて63.98%を報告しました。いずれも保有目的は安定株主としての長期保有で、上場前からの持ち株です。
取得資金の欄を見る
報告書には、株の取得に使った資金の内訳(自己資金・借入金など)が書かれています。山八商事の鈴木氏の取得資金は自己資金1億5,838万円で、報告された株数を市場価格で評価した額よりずっと小さい金額でした。上場前の設立時や増資時に安い価格で取得した株であることを示しています。
ビーエイブルでは取得資金8億3,940万円のうち8億2,330万円、ギークリーでは15億3,731万円のうち13億2,380万円が借入金でした。創業者の資産管理会社が銀行から借りて、創業者本人やほかの初期株主から株を買い取る形はよく見られます。借入金が大きいこと自体は問題ではありませんが、株価が大きく下がると担保の追加などが必要になることがあり、報告書の「担保契約等重要な契約」の欄とあわせて読むと状況がつかめます。
コシダカホールディングスでは、創業者一族の出資会社であるヨウザンの保有が0.79%から27.59%へ増えましたが、取得資金は自己資金3,000万円でした。増えた分を開示日の終値で評価すると200億円を超えるため、市場で買ったのではなく、一族の持ち株を出資会社へ移した取引とみるのが自然です。
相続で提出者が変わる
サツドラホールディングスでは、2026年6月に株式会社トミーコーポレーションが35.03%の大量保有報告書を出しました。報告書には、主たる提出者だった富山睦浩氏が2026年4月18日に亡くなったため、提出者が同社に変わったことが記されています。
このように、比率の数字そのものは大きく変わらなくても、提出者の交代によって新しい報告書が出ることがあります。報告書の種類が「大量保有報告書」(新規)であっても、新しい投資家が現れたとは限りません。
比率の節目:3分の1・過半数・3分の2
創業者側の保有比率を見るときは、会社法上の節目を意識すると意味が分かりやすくなります。3分の1を超えると、定款変更や合併などの特別決議を単独で否決できます。過半数を持てば、取締役の選任などの普通決議を単独で可決できます。3分の2以上を持てば、特別決議も単独で可決できます(いずれも原則で、議決権の数え方や定款の定めによって変わります)。
山八商事の69.58%は3分の2を上回り、ビーエイブルの60.1%とギークリーの63.98%は過半数ですが3分の2には届きません。サツドラの35.03%は3分の1をわずかに上回る水準です。
創業者の比率が大きく下がったとき
オイシックス・ラ・大地では、創業者で代表取締役の髙島宏平氏の保有が12.95%から1.62%へ下がりました。報告書の保有目的は経営参加と経営の安定化のままです。創業者の比率低下は、市場や特定の相手への売却のほか、別の会社への移管など報告の対象外への移動でも起きます。
減った株がどこへ行ったのかは、同じ時期に同じ銘柄で出たほかの報告書を並べると手がかりが得られます。当サイトの銘柄ページでは、その銘柄のすべての大量保有報告を日付順に確認できます。
集計は当サイトが取り込んだEDINETの大量保有報告書・変更報告書・訂正報告書のうち、2025年9月1日から2026年9月10日までに開示された17,851件が対象です。会社法上の決議要件は一般的な説明で、個別の会社の定款や議決権の状況によって異なります。